読書

喫茶店で中国人が読書する姿を、終ぞ見かけない。文庫本が無いからだろうか?しかし私は近所のスタバでよく本を読む。中国に来てから、一人で居る時間がやたら増えたので、本はよく読める。◉最近はオーウェルの『一九八四年』新訳。すんげえ暗い話だ。中国は全くコレに近いわ。中に出てくるビッグブラザーの巨大な顔のポスターで、すぐ思い浮かぶのは北朝鮮だけど、中国も一党独裁、権力集中の格差社会である点では本質的にそっくりだ。◉ニュースピークという新言語は、何となく簡体字の思想と共通点を感じる。座りの悪い書体で、ずいぶん以前に中国語のカタログを作った時、お客から「この傘みたいな記号、大体これって字ですか?文字化けしてません?」と聞かれた。◉ああなんかもう、全然気に入らんわこの国。ふと肩に手を置かれて、顔を上げると、紺色の制服を着た柔和な表情の男性が立っていた。腕には公安の腕章が見えた。◉というような事が、有るかもしれん。◉高校生の頃、熊野の民宿で、猛烈な頭痛の中、寝転びながら『異邦人』を読んだ。ひどく暑い午後、旅館には私一人で、とても静かだった。小説から目を離すと、開け放した窓から真っ青な空が見え、その四角い空の真ん中に、ちぎれ雲が一つ浮かんでいた。その雲が、場所も変えずに次第に蒸発していくのを、ぼんやり眺めていた。夏の熱気が、じりじりと世界を消していくような気がした。夏に本を読んでいると、時々思い出す。